新連載企画

【第一章】河川敷で出会った“立つだけの男”

春の午後、太郎はランニングウェア姿で河川敷に立っていた。

「今日こそは、限界まで追い込む!」

そう気合を入れていたが、花粉と仕事の疲れで、すでにやる気は半分減っている。

そんな中、視界の隅に「なにか」妙な人影が映った。

グラウンドの端。

帽子もサングラスもせず、真っすぐ一点を見つめながら“ただ立っている男”。

腕も動かさず、微動だにしない。

まるで電源を切られたロボットのようだ。

(え、何してんのあの人……?)

気になってチラチラ見ていると、その男がゆっくりとこちらに振り向いた。

「お、君、いい姿勢してるね。立ち方はどうしてる?」

「は? 立ち方? いや、普通に……立ってますけど。」

「“普通に”ね。なるほど、いちばん危ない言葉だ。」

男はニヤリと笑った。

見た目は四十代半ば。落ち着いているが、どこか柔らかい気配をまとっている。

「僕は立芯(りっしん)。“立つ”ことを教えてる。」

「立つこと、ですか?……えっと、ヨガとか整体の人ですか?」

「いや、立つだけ。立ってる間に、全部がわかる。」

「えー……(ヤバい人かもしれん)。」

太郎はそっと距離を取った。だが立芯は続ける。

「ところで、君。筋トレは好きか?」

「大好きですよ! やっぱ努力が結果を出すじゃないですか。汗かいて、追い込んで、筋肉つけて!」

「うん、いいね。でも、“頑張る”って、いつまで続けるつもり?」

「そりゃあ、一生ですよ!」

「ふふ。なら、一生“頑張り続ける人生”になるね。」

「え、いや、それっていいことじゃないですか?」

「頑張らないと立てない人は、力を抜くと倒れるんだ。

でも、本当の“立つ”は、力を抜いても立ってる。自然にね。」

太郎は一瞬、返す言葉を失った。

風の音だけが流れた。

立芯は言葉を足す。

「筋肉は鍛えた分だけ強くなる。

でも芯は、手放した分だけ整う。」

意味が分からない。

だけど、なぜか胸の奥で何かが“カチッ”と音を立てた。

その日、太郎は立芯に誘われて「立つだけの稽古」に付き合うことになる。

腕を組み、眉をひそめながら。

(まあ、5分くらいならいいか。筋トレの一環だろ。)

だが、それが人生を変える始まりになるとは、まだ誰も知らなかった。

《第一章の気づき》

人は“頑張る”ことで強くなった気がしている。

だが、“頑張らずに立てる”ことこそが、本当の強さの始まりかもしれない。

→次回【第二章】筋トレでは変わらなかった理由

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