春の午後、太郎はランニングウェア姿で河川敷に立っていた。
「今日こそは、限界まで追い込む!」
そう気合を入れていたが、花粉と仕事の疲れで、すでにやる気は半分減っている。
そんな中、視界の隅に「なにか」妙な人影が映った。
グラウンドの端。
帽子もサングラスもせず、真っすぐ一点を見つめながら“ただ立っている男”。
腕も動かさず、微動だにしない。
まるで電源を切られたロボットのようだ。
(え、何してんのあの人……?)
気になってチラチラ見ていると、その男がゆっくりとこちらに振り向いた。
「お、君、いい姿勢してるね。立ち方はどうしてる?」
「は? 立ち方? いや、普通に……立ってますけど。」
「“普通に”ね。なるほど、いちばん危ない言葉だ。」
男はニヤリと笑った。
見た目は四十代半ば。落ち着いているが、どこか柔らかい気配をまとっている。
「僕は立芯(りっしん)。“立つ”ことを教えてる。」
「立つこと、ですか?……えっと、ヨガとか整体の人ですか?」
「いや、立つだけ。立ってる間に、全部がわかる。」
「えー……(ヤバい人かもしれん)。」
太郎はそっと距離を取った。だが立芯は続ける。
「ところで、君。筋トレは好きか?」
「大好きですよ! やっぱ努力が結果を出すじゃないですか。汗かいて、追い込んで、筋肉つけて!」
「うん、いいね。でも、“頑張る”って、いつまで続けるつもり?」
「そりゃあ、一生ですよ!」
「ふふ。なら、一生“頑張り続ける人生”になるね。」
「え、いや、それっていいことじゃないですか?」
「頑張らないと立てない人は、力を抜くと倒れるんだ。
でも、本当の“立つ”は、力を抜いても立ってる。自然にね。」
太郎は一瞬、返す言葉を失った。
風の音だけが流れた。
立芯は言葉を足す。
「筋肉は鍛えた分だけ強くなる。
でも芯は、手放した分だけ整う。」
意味が分からない。
だけど、なぜか胸の奥で何かが“カチッ”と音を立てた。
その日、太郎は立芯に誘われて「立つだけの稽古」に付き合うことになる。
腕を組み、眉をひそめながら。
(まあ、5分くらいならいいか。筋トレの一環だろ。)
だが、それが人生を変える始まりになるとは、まだ誰も知らなかった。
《第一章の気づき》
人は“頑張る”ことで強くなった気がしている。
だが、“頑張らずに立てる”ことこそが、本当の強さの始まりかもしれない。
→次回【第二章】筋トレでは変わらなかった理由
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この物語にどこか心が動いた方へ。
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