太郎は、また河川敷に来ていた。
もう三日連続だ。
本人も、なぜ来ているのか分からない。
(あの人の話、意味わからないのに、なんか気になるんだよなぁ…)
今日も立芯は、風に吹かれながら静かに立っていた。
その姿はまるで“ポケモンの野生個体”。
「立っている」しか行動がない。
「……師匠、また立ってるんですか。」
「おう。今日も地球の回転に合わせて立ってる。」
「いや、それ全人類そうですよ!?」
立芯は口の端を上げて、
「太郎くん、今日は“立つことの意味”を感じてみようか。」
と言った。
「いやいや、だからそれがわからないんですよ!
立つって、ただ“足で地面に接してるだけ”じゃないですか!」
「なるほど。じゃあ聞こう。
君のスマホ、バッテリー切れたらどうする?」
「充電しますけど?」
「ふむ。じゃあ人間は?」
「……寝ますけど。」
「そう。でも“立つ”ってのは、“起動状態の充電”なんだ。」
「え? 起きながら充電? そんな都合のいい話あります?」
「ある。立つってね、“地球のWi-Fi”につながる姿勢なんだよ。」
「……出た、スピリチュアルWi-Fi理論!」
立芯は笑いもせず、真剣な顔で言う。
「地に足をつけるって言葉あるでしょ?
あれ、本当の意味は“地球と通話中”ってことなんだ。」
「通話中!? 僕、圏外なんですけど!」
「だろうね。だって君、いつも筋肉でノイズキャンセルしてるもん。」
「ぐっ……!」
立芯は続けた。
「人間の姿勢は、立ち方に“世界観”が出る。
逃げ腰の人は逃げる人生に、踏ん張ってる人は戦う人生に。
でも、ただ“立ってる人”は、どんな状況でも揺れない。」
「……なるほど。
でも僕、仕事で上司に理不尽なこと言われたらすぐ揺れますけど?」
「うん、それ普通。
でもね、“身体”が立てば、“心”は勝手に戻るんだ。」
「え、そんな自動修復機能あるんですか!?」
「ある。ただし、保証期間は一生。」
「ずっと!? メンテ大変じゃないですか!」
「毎日、立てばいいだけさ。」
太郎は頭を抱えた。
(なんでこの人の話、胡散臭いのに妙に納得しそうになるんだろ……)
立芯は、太郎の眉間を軽く指で突いた。
「そこ。いつも考えすぎで固まってる。」
「えっ、わかるんですか!?」
「そりゃあ、立ってる人には、立ってない人の力みが見えるんだよ。」
「……なんか、悔しい。」
「いいね。その“悔しい”が、身体の扉を開ける。
君が本当に立てた時、もう筋トレじゃ届かない世界が見える。」
「……そんな世界、見たくないような、見てみたいような。」
「じゃあ、今日は立ちながら聞こう。」
「え? また立つの? もう太ももが僕を恨んでますけど。」
「恨まれてるうちは、まだ愛されてる証拠だよ。」
「名言っぽく言わないでください!」
二人の笑い声が、夕方の風に混じって流れた。
太郎の中ではまだ“立つ意味”は分からない。
だが、立つことを“やめない理由”が少しだけできた。
《第三章の気づき》
意味が分からなくても、人は続けられる。
“立つ”とは、分からないまま信じてみる練習なのかもしれない。
次回【第四章】静けさの中にある力
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