新連載企画

【第四章】静けさの中にある力

日曜の朝。

太郎は河川敷に立っていた。

立芯に「明日の朝、6時集合ね」と言われ、断る間もなくLINEの“既読圧”に押し切られたのだ。

(寝たい……筋トレよりキツい……)

川の向こうではジョギングする人、犬を散歩させる人、バーベキューの準備を始める人。

それに対して、自分は――ただ立っている。

「……師匠、これって、何してるんですかね?

もう10分くらい経ってる気がするんですけど。」

「立ってる。」

「いや、だからそれは見ればわかります! 目的を聞いてるんです!」

「立つことに、目的をつけると“立てなくなる”。」

「うわー、また出た、それ系のやつ!」

立芯は笑った。

「太郎くん、静かすぎて不安になるでしょ?」

「そりゃなりますよ!

だって、スマホ見れないし、音楽も聞けないし、鳥の声しか聞こえないし!」

「それでいいんだ。

静けさって、最初は“敵”に感じるけど、だんだん“友達”になる。」

「……いや僕、人見知りなんで。」

「静けさに人見知りするなよ。」

太郎は苦笑いしながらも、言葉が胸に残った。

立芯の声が、いつのまにか風と一緒に聞こえてくる。

「人は、音がないと不安になる。

でも、“内側の音”が聞こえ始めた時、静けさが味方に変わる。」

「内側の音……? 心臓の鼓動とかですか?」

「うん、それもある。

でもね、もっと深い“芯の音”があるんだ。」

「芯の音……?」

「立ってるだけなのに、なぜか涙が出そうになる時がある。

それが“芯”の音を聞いてる瞬間。」

太郎は思わず吹き出した。

「師匠、それ完全にスピリチュアル通り越して“ポエム”ですよ!」

「詩(うた)を笑うな。身体はいつも、詩でできてる。」

太郎の口が“ポカン”と開いたまま、風が通り抜けた。

その一瞬だけ、世界の音が消えた気がした。

川の流れ。鳥の声。木々のざわめき。

すべてが溶けて、自分の呼吸だけが残る。

(あれ……なんか、静けさって悪くないかも?)

次の瞬間――ブウゥゥン!

耳元で蚊が飛んだ。

「うわっ! ちょ、師匠! 集中してたのに!」

「はは、自然はテストが早いね。静けさに耐えられるかどうか。」

「いや無理です! 蚊は強敵です!」

「静けさの中でも怒らない。それが“姿勢”だよ。」

「蚊に刺されながら悟れって言うんですか!?」

立芯は笑いながら言った。

「“静けさの力”ってのはね、

状況に支配されず、心を静かに保つことなんだ。」

「……あー、それ、会社でも必要だなぁ。

会議中、上司の話、毎回心がザワつきます。」

「それも“姿勢”だね。

身体が整えば、心も波立たない。

でも、心が乱れると、姿勢は必ず崩れる。」

太郎は、深く息を吸った。

さっきまでうるさかった頭の中が、少しだけ静まっていた。

「師匠……なんか、今、頭の中が空っぽです。」

「おめでとう。そこが“スタートライン”だ。」

「……スタートライン!? てっきりゴールかと!」

「ここからだよ。

静けさを力に変える。それが“立つ”の本当の意味。」

太郎は無意識に笑っていた。

「立つだけ」で、こんなにも心が軽くなるなんて、思ってもみなかった。

《第四章の気づき》

静けさとは、何もない時間ではなく、

“自分と再びつながる時間”である。

動かない勇気が、最も深い変化を呼び起こす。

次回【第五章】“やる気”が要らない世界

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この物語にどこか心が動いた方へ。

“立つ”ことから始める、心身の整えと深い対話の場──
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静かに立つことから、内なる声を聴き、言葉にならない想いを受けとめ合います。

ご参加を希望される方は、まずは立芯の【公式LINE】にご登録の上、
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ご一緒できることを、心から楽しみにしています。