日曜の朝。
太郎は河川敷に立っていた。
立芯に「明日の朝、6時集合ね」と言われ、断る間もなくLINEの“既読圧”に押し切られたのだ。
(寝たい……筋トレよりキツい……)
川の向こうではジョギングする人、犬を散歩させる人、バーベキューの準備を始める人。
それに対して、自分は――ただ立っている。
「……師匠、これって、何してるんですかね?
もう10分くらい経ってる気がするんですけど。」
「立ってる。」
「いや、だからそれは見ればわかります! 目的を聞いてるんです!」
「立つことに、目的をつけると“立てなくなる”。」
「うわー、また出た、それ系のやつ!」
立芯は笑った。
「太郎くん、静かすぎて不安になるでしょ?」
「そりゃなりますよ!
だって、スマホ見れないし、音楽も聞けないし、鳥の声しか聞こえないし!」
「それでいいんだ。
静けさって、最初は“敵”に感じるけど、だんだん“友達”になる。」
「……いや僕、人見知りなんで。」
「静けさに人見知りするなよ。」
太郎は苦笑いしながらも、言葉が胸に残った。
立芯の声が、いつのまにか風と一緒に聞こえてくる。
「人は、音がないと不安になる。
でも、“内側の音”が聞こえ始めた時、静けさが味方に変わる。」
「内側の音……? 心臓の鼓動とかですか?」
「うん、それもある。
でもね、もっと深い“芯の音”があるんだ。」
「芯の音……?」
「立ってるだけなのに、なぜか涙が出そうになる時がある。
それが“芯”の音を聞いてる瞬間。」
太郎は思わず吹き出した。
「師匠、それ完全にスピリチュアル通り越して“ポエム”ですよ!」
「詩(うた)を笑うな。身体はいつも、詩でできてる。」
太郎の口が“ポカン”と開いたまま、風が通り抜けた。
その一瞬だけ、世界の音が消えた気がした。
川の流れ。鳥の声。木々のざわめき。
すべてが溶けて、自分の呼吸だけが残る。
(あれ……なんか、静けさって悪くないかも?)
次の瞬間――ブウゥゥン!
耳元で蚊が飛んだ。
「うわっ! ちょ、師匠! 集中してたのに!」
「はは、自然はテストが早いね。静けさに耐えられるかどうか。」
「いや無理です! 蚊は強敵です!」
「静けさの中でも怒らない。それが“姿勢”だよ。」
「蚊に刺されながら悟れって言うんですか!?」
立芯は笑いながら言った。
「“静けさの力”ってのはね、
状況に支配されず、心を静かに保つことなんだ。」
「……あー、それ、会社でも必要だなぁ。
会議中、上司の話、毎回心がザワつきます。」
「それも“姿勢”だね。
身体が整えば、心も波立たない。
でも、心が乱れると、姿勢は必ず崩れる。」
太郎は、深く息を吸った。
さっきまでうるさかった頭の中が、少しだけ静まっていた。
「師匠……なんか、今、頭の中が空っぽです。」
「おめでとう。そこが“スタートライン”だ。」
「……スタートライン!? てっきりゴールかと!」
「ここからだよ。
静けさを力に変える。それが“立つ”の本当の意味。」
太郎は無意識に笑っていた。
「立つだけ」で、こんなにも心が軽くなるなんて、思ってもみなかった。
《第四章の気づき》
静けさとは、何もない時間ではなく、
“自分と再びつながる時間”である。
動かない勇気が、最も深い変化を呼び起こす。
次回【第五章】“やる気”が要らない世界
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この物語にどこか心が動いた方へ。
“立つ”ことから始める、心身の整えと深い対話の場──
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毎月、月のリズムに合わせて開催される少人数制の特別な時間。
静かに立つことから、内なる声を聴き、言葉にならない想いを受けとめ合います。
ご参加を希望される方は、まずは立芯の【公式LINE】にご登録の上、
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ご一緒できることを、心から楽しみにしています。

	
	
	
	
	
	
	
	
	
	
