日曜の午後。
太郎は、筋トレジムの前で立ち止まっていた。
(あれ、なんか……行く気がしない。)
昨日の“立つ稽古”のあとから、妙に身体が静かだ。
ジムに行こうとしても、心の奥で誰かが「今日は立てばいい」って言ってくる。
「……師匠の呪いかこれ。」
スマホを開くと、立芯からメッセージが届いていた。
『今日のテーマ:“やる気”を出さない。』
「いや、どういうテーマ!?」
思わず声が出た。
太郎は混乱しながらも、また河川敷へ。
「おう、来たね。いい顔してる。」
「いや、寝起きですよ!? 師匠、今日のテーマなんなんですか。“やる気を出さない”って、どういう修行なんですか。」
「うん。やる気ってね、出すほど“今”から離れるんだよ。」
「……またそういうやつ……。
でも、“やる気”がないと人は動けないじゃないですか?」
「動かなくていい。」
「いやいやいや! 社会回らないでしょ!?」
立芯は笑って言う。
「太郎くん。君、エレベーター乗る時、ボタン連打するタイプでしょ?」
「……な、なんで分かるんですか!?」
「やる気が強い人ほど、すぐ押したがるんだよ。
でも、エレベーターはさ、押さなくても必ず動く。」
「……師匠、それ比喩のセンス、ずるいですよ。」
「人も同じ。
“立ってるだけ”でも、呼吸は勝手にしてる。
心臓も、血も、細胞も、全部動いてる。
なのに、“動かなきゃ”って焦るんだ。」
「うっ……痛いとこ突いてくるな。」
立芯は笑いながら、両手をぶらんと垂らした。
「やる気のいらない世界ってね、“自然が勝手にやってくれる”世界なんだ。」
「え、それってサボるってことですか?」
「いや、信じるってことだ。」
太郎は思わず黙った。
風が頬をなでる。
立芯の声が、風の中に溶けていくように聞こえた。
「“立つ”って、信じて任せる姿勢なんだよ。
地球に、重力に、自分に。」
「……でも、師匠。それで結果が出なかったらどうするんです?」
「その時は、“立ち直ればいい”。」
「……!」
まるで冗談のようで、胸の奥がグッと熱くなった。
立芯は少しニヤリとして、
「太郎くん、筋トレやってて、“やる気MAX”の時にフォーム崩れたことない?」
「あります。気合い入りすぎて、腰痛めたことも。」
「それだ。
“やる気”って、時々“暴走エネルギー”になるんだよ。
本当の力は、“静かな熱”なんだ。」
「静かな熱……。」
太郎は、しばらく無言で立っていた。
何もしていないのに、背中が温かくなっていく。
力を抜くほど、内側に何かが灯る。
(あれ……これ、筋トレより効くかも?)
立芯がふと笑う。
「いいね、その顔。
“やる気ゼロ”で、“芯百パーセント”だ。」
「いや、そんな褒め言葉あります!?」
二人の笑い声が、夕日に溶けていった。
静けさの中に、あたたかな余韻だけが残る。
《第五章の気づき》
“やる気”は時に、自分への不信から生まれる。
何もしなくても立っていられる時、
人はすでに“自然と一体”で動いている。
次回【第六章】筋肉と芯のちがい
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